本書は、カリフォルニア大学医学部精神医学科教授のポール・エクマン氏と、同助教授のW.V.フリーセン氏が刊行した『UNMASKING THE FACE, Prentice-Hall, Inc., Englewood Cliffs, 1975』の全訳版です。
”他の人びとに対して感ずる予感とか直感の根拠が、実は顔の表情にあったということに気づくのはまれである””自分の感じた対人的印象の源泉を突きとめられないままで、人はただ他者についてなんらかの印象を感じとるだけなのであろう”
先般、コロナ禍における裁判員裁判において、弁護人がマスク着用による裁判進行の拒否を行ったことが物議を醸しました。上記のとおり、顔の表情は、対人的印象の源泉となるものであり、「表情を見ることができる/できない」ということは、他の人びとに対して抱く直感に、無意識のうちに大きな影響を与えています。そうだとすれば、適正な裁判の見地からは、表情の一部を隠すことなく全てが見える状態で行うことが最も望ましいことに疑いはありません。上記弁護人は、マスクの着用が「証拠そのものに影響を与えるおそれがある」と意見しており、これは全くもって正しい見解と考えます。他の権利利益との調整及び手段・方法についてはその先の様々な価値判断を含んだ議論となりますが、少なくとも表情の影響を無視・軽視した議論は、表情の雄弁性に対する認識の欠如からくるものにすぎないように思われます。