memorandum

弁護士稲益寛明による法律×心理×情報処理その他関心事を書き留めるブログです。

ビクトル・エリセ『ミツバチのささやき』

 

 本作は、『エル・スール』等でも有名な、スペインの巨匠ビクトル・エリセ監督による1973年に公開された映画です(タイトルは、詩人であるモーリス・メーテルリンクの作品から引用されています)。スペイン内戦(1936~1939年)終結直後における中部カスティーリャ高地の小さな村を舞台に、6歳の少女とその家族たちの日常が淡々と描かれています。

本作が制作された背景には、当時のスペインにおけるフランコ政権(~1975年)による独裁といった国内事情があったようです。独裁政権下では厳しい検閲が行われ、国民の言論・思想・表現が徹底的に統制されてしまうことは古今東西を問いません。

本作では、スペイン政府からの検閲を逃れるために、多くのシンボリックな映像や、メタファーが随所に散りばめられています。それゆえの抽象的で静謐な雰囲気と、不穏で荒涼としながら詩情に溢れた景色、主人公の少女が向ける純粋無垢な眼差し、それを通じた幼児期特有の心理描写等が絡み合って、得体の知れない暗示をかけられたような不思議な感覚を観る者に抱かせます。

表現の自由そのものが制約される中、理性をもって抗い乗り越えようとする創造力を源泉とし生み出された、非常に貴重な映画作品の一つと思われます。一法律家からの視点においても、大変興味深く観賞することができました。