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弁護士稲益寛明による法律、情報処理及び心理その他関心事等を書き留めるブログです。

託摩佳代『人類と病 ー国際政治から見る感染症と健康格差ー』

 

先日、ようやく2回目のワクチン接種を終えました。大変恥ずかしながら、私は元来注射が非常に苦手な上、今回のワクチン接種でも発熱や頭痛が数日にわたり継続するなど副反応もきつく、出来ることならもう打ちたくないというのが正直な感想ではありました。とはいえ、感染症に対峙する人類の歴史を振り返るに際しては、ワクチンの功績なしに語ることなど到底できないようです。

本書は、 国際政治学を専門とする、東京都立大学教授の託摩佳代氏による著作です。種々の感染症と人類の闘いについて、国際協力の在り方からその歴史をダイナミックに論じています。とりわけ「健康への権利(Right to Health)」を論じた章は、医療アクセス確保が喫緊の課題となっている今日のコロナ禍の状況において、大変興味深い内容でした。

我が国において健康権は憲法25条により保障されていますが、そもそも法的に観念される「健康」とはいったい何を意味するのでしょうか。WHO憲章によれば、「身体的・精神的、社会的福利のことで、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と定義されており、到達し得る最高水準の健康を達成することはすべての基本的人権の一つ、とまで位置づけられています。

さて、我が国では、上記のような健康への権利を十分に享受することができているといえるでしょうか。医療アクセスをめぐる問題が極めて政治的問題であることは、今日のコロナ禍を巡る状況からも明らかであり、そのことは決して国際的問題だけに限定されたものではないようです。しかしながら、著者も示唆するように、この政治的な影響力というものを排斥することは現実的でなく、むしろそれ自身が所与のものとして活用され、権利の実現にうまく転換が図られることを期待すべきなのかもしれません。健康への権利に対する関心は、国内外問わず今後ますます高まっていくように思われます。