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弁護士が関心事等を書き留めるブログです。

香西秀信『論理病をなおす!ー処方箋としての詭弁』

 

私事ながら最近引越しをしたのですが、その際に書籍を整理していた折、本書がふと目に留まり、懐かしくなって久々に読み返したりしておりました。

本書は、修辞学や国語科教育学を専門とする、宇都宮大学教育学部教授を務められた香西秀信氏による著作です。先決問題要求の虚偽、多義又は曖昧の詭弁、藁人形攻撃、性急な一般化等の有名な「詭弁」を紹介しながら、人間がものを考えるときの心理状態ひいては本質的な癖のようなものを炙り出そうとします。フランシス・ウェルマンや小林秀雄等の著名人の論述を引用しつつ、多分のユーモアと毒舌をもって傾斜のついた視点から刺激的・挑発的に論じられており、小気味よいテンポで面白く読み進めることができます。

私が司法試験〜司法修習を終えて弁護士となり間もなく、知らぬ間に論理偏重の石頭となっており手をつかねるばかりだった頃、氏の著作を数冊読んで大変頭が解された思い出があります。本書でとりわけ印象に残った、「自ら信じることを実現するために、少なくとも言葉においては可能な限りの手段を利用しなくてはならない。これがレトリックの倫理である。」といった言葉などは、弁護業務の実践に際し非常に励みになるものでした。

氏は、本書以外にも『反論の技術』『修辞的思考』『議論入門』等、興味深い著作を多数残しておりますので、いわゆる「ディベート」といった純粋な討論領域では収まり切れない、実践的な議論というものに関心のある方にはいずれもお勧めです。なお、氏は2013年にお亡くなりになられたとのことで、新たな著作を読むことができないのが大変残念でなりません。